こんにちは、院長の宮脇大です。
「先生、減塩してるんですけど、全然血圧が下がらないんですよ・・」
先日、高血圧の患者さんからこんな相談を受けました。
食事記録もつけている、ラーメンも週1に減らした、みそ汁は具だくさんにして汁を減らした。 それでも、血圧の数値はほとんど変わらない・・。
すごくがんばっているのに、結果が出ないのはつらいですよね。
実はこれ、塩分感受性という体質の違いが関係している可能性があります。 そしてその塩分感受性は、遺伝子と深く関わっているんです。
今日はそのお話をしますね。
「塩分で血圧が上がる人」と「あまり上がらない人」がいる
まず基本のおさらいから。
塩(ナトリウム)を摂ると、体は「水分を保持しよう」と動きます。 水分が増えると血液の量が増えて、心臓が押し出す力が強くなる。 その結果、血圧が上がります。
・・これはなんとなく聞いたことがある方も多いですよね。
ただ、同じ量の塩分を食べても、血圧が上がりやすい人と、あまり上がらない人がいるんです。
この違いを「塩分感受性」と呼びます。
- 塩分感受性が「高い」タイプ → 減塩で血圧が下がりやすい
- 塩分感受性が「低い」タイプ → 減塩しても血圧が変わりにくい
最初の患者さんは、もしかすると後者のタイプだったのかもしれません。
血圧を動かす仕組み:レニン–アンジオテンシン系
塩分感受性を理解するには、体の「血圧調節システム」を知る必要があります。
少し専門的になりますが、レニン–アンジオテンシン系(RAS)というシステムがあります。
ざっくり説明するとこんな感じです。
腎臓が「血圧が低い!」と感知
→ レニンを分泌
→ AGT(アンジオテンシノーゲン)がアンジオテンシンIに変換
→ ACEがアンジオテンシンIIに変換
→ 血管が収縮して血圧が上昇
「血圧を上げる連鎖反応」のシステムですね。
このシステムの各ステップに関わる遺伝子の型が、塩分感受性の個人差をつくっています。
注目の遺伝子①:ACE遺伝子
ACE(アンジオテンシン変換酵素)は、RASの中で「血圧を上げる物質」を作る酵素です。
このACE遺伝子には**I型(挿入型)とD型(欠失型)**という2パターンがあって、 染色体の組み合わせで「II型」「ID型」「DD型」の3タイプに分かれます。
研究では、以下のような傾向が報告されています。
- II型: 塩分摂取で血圧が上がりやすい(塩分感受性が高め)
- DD型: 高血圧そのもののリスクが高め(特に男性)
2025年に長崎の離島住民を対象にした研究(Nagasaki Islands Study)でも、 ACE遺伝子の特定の型が高血圧と独立した関連を持つことが改めて確認されました。
注目の遺伝子②:AGT遺伝子
AGT(アンジオテンシノーゲン)遺伝子は、RASの「出発点」となるタンパク質を作る遺伝子です。
AGT遺伝子の型によっては、夜間に血圧が下がりにくくなる傾向が報告されています。
「non-dipper型高血圧」と呼ばれるタイプで、 夜間に血圧が下がらないと、心臓や血管への負担が昼間以上に続くことがわかっています。
血圧測定を朝だけやっている方は、 夜間や就寝中の血圧にも目を向けるきっかけになるかもしれません。
日本人は塩分感受性が高い民族?
ここが非常に重要なポイントです。
塩分感受性に関わる遺伝子の「リスク型の頻度」を日本人と欧米人で比べると、 日本人(東アジア人)のほうが明らかに高いことがわかっています。
具体的には、ACE遺伝子・AGT遺伝子のほか、 ADD1(αアダクチン)、GNB3(Gタンパク質β3サブユニット)なども、 日本人でリスク型の頻度が高いと報告されています。
つまり、日本人は体質的に塩分の影響を血圧に受けやすい人が多いということです。
日本食は昔からしょうゆ・みそ・漬け物・塩辛・・と塩分が多めの文化でした。 それでも血圧が保たれてきた歴史と、遺伝子の分布の間には、複雑な関係がありそうです。
こういう歴史的な背景を考えると、遺伝子ってなんか面白いですよね。
「減塩以外の対策」も大事
話を戻すと・・
塩分感受性が「低い」タイプの方は、減塩の効果が血圧に出にくい場合があります。
その場合は、塩分制限だけでなく以下のアプローチも重要になります。
- 体重管理(内臓脂肪を減らすことで血圧が改善しやすい)
- 有酸素運動(ウォーキング・水泳・自転車)
- カリウムを増やす(野菜・果物・豆類に多い)
- アルコールを控える
一方で、塩分感受性が「高い」タイプだと、少しの減塩でも血圧に大きく影響します。 その場合は、食事の塩分管理が特に有効な手段になります。
自分がどちらのタイプかを知っておくと、何から優先して取り組めばいいかが変わってくるんです。
まとめ
「減塩してるのに血圧が下がらない」という経験をされている方は、 遺伝的な塩分感受性が低いタイプの可能性があります。
遺伝子の特性を知ることで、 「自分に合った高血圧予防の戦略」を立てやすくなります。
Doctor’s Fitness 診療所の「ゲノムでYOBO相談」では、 GreenChordの遺伝学的検査をもとに、こういった循環器リスクの体質も踏まえて、 医師が一緒に予防プランを考えていきます。
「健診で毎年血圧が高めと言われている」「そろそろ薬を飲むか迷っている」 という方、ぜひLINEからお気軽にご相談くださいね。
遺伝子と生活習慣病の全体像についても、 よければ合わせて読んでみてくださいね。
次回は、「睡眠と遺伝子」の話をします。 「朝型・夜型って遺伝子で決まるの?」という疑問にお答えしますね。
それでは、また!