こんにちは、院長の宮脇大です。
先日、こんなことを患者さんから相談されました。
「先生、私って本当にストレスに弱くて。同僚は同じ仕事量でも全然平気そうなのに、自分だけグッタリしてしまうんです・・。これって性格の問題ですか??」
こういうご相談、実は多いんです。
結論から言うと、これは「性格の弱さ」ではなく、「遺伝的な体質の違い」かもしれないんです。
今日は、ストレス耐性と深く関わる COMT遺伝子(コミット遺伝子)について、分かりやすくお話しします。
COMT遺伝子ってなに?
COMT(Catechol-O-Methyltransferase)は、脳内でドーパミンやノルアドレナリンなど、**興奮・やる気・ストレス反応に関わる物質(カテコールアミン)**を分解する酵素をつくる遺伝子です。
なんとなく難しそうですが、要するに、
「ストレスホルモンの”分解速度”を決める遺伝子」
と思ってもらえれば大丈夫です。
この遺伝子には、**Val158Met(rs4680)**と呼ばれる1文字の違い(SNP)があります。
- 158番目のアミノ酸が「バリン(Val)」→ 高活性タイプ
- 158番目のアミノ酸が「メチオニン(Met)」→ 低活性タイプ
この「1文字の差」が、ストレス反応に大きな違いをもたらします。
「戦士型」と「心配性型」
COMT遺伝子の違いで、よく「ウォリアー型(Warrior)」と「ウォリアー型(Worrier)」という呼び方をすることがあります。
Val/Val型(ウォリアー=戦士型)
- COMT酵素の活性が高い
- 前頭前野でのドーパミンが素早く分解される
- ドーパミン基礎レベルは低め
- ストレス状況でも崩れにくい「戦士タイプ」
- 痛みに対しても鈍感になりやすい傾向
Met/Met型(ウォリアー=心配性型)
- COMT酵素の活性が低い
- ドーパミンが分解されにくく、前頭前野に蓄積されやすい
- ドーパミン基礎レベルは高め
- 通常時は集中力・記憶力が高いことも
- ストレス時には「崩れやすい」「引きずりやすい」傾向
- 痛みに敏感になりやすい
Val/Met型(中間型)
多くの方がこの「ヘテロ接合型」で、両方の特徴を少しずつ持ちます。
日本人では、Met/Met型が約3割、Val/Met型が約5割、Val/Val型が約2割程度とされており、「心配性型」の要素を持つ方は決して少数ではないんです。
「ウォリアー型がいい」わけじゃない
ここで誤解してほしくないのですが、「戦士型がいい、心配性型が悪い」というわけじゃないんです。
Met/Met型の方は、平常時の認知機能や記憶力が優れているという研究もあります。細かいことに気づく、物事を深く考える、共感力が高い・・そういった特性ともつながっていると言われています。
「ストレスに敏感」=「弱い」ではなく、「センサーの感度が高い」という見方もできます。
大事なのは、自分の体質を知って、それに合ったストレス対策を取ることです。
女性に特に関係するCOMT遺伝子の話
COMT酵素には、もう一つ重要な役割があります。
それは、女性ホルモン(エストロゲン)の代謝です。
COMT酵素は、エストロゲンをメチル化して体外に排出する働きを担っています。
Met/Met型(低活性タイプ)では、エストロゲンの分解が遅れやすく、体内のエストロゲン濃度が相対的に高くなりやすい傾向があります。これが月経前症候群(PMS)や更年期症状の重さ、さらには乳がんリスクとの関連を示唆する研究もあります(ただし、COMTだけで決まるものではありません)。
女性の患者さんで「PMSが重い」「更年期の波が激しい」という方は、COMT遺伝子の体質が一因になっている可能性も考慮に値します。
ちょっと面白い「メチル化」との繋がり
このCOMT酵素が働くためには、**SAM(S-アデノシルメチオニン)**というメチル基供給物質が必要です。
このSAMをつくるプロセスに深く関わっているのが・・そう、以前に解説したMTHFR遺伝子(葉酸代謝)なんです。
MTHFR遺伝子に変異がある方は葉酸の代謝が落ちやすく、SAMの供給が滞ることで、COMTの働き自体にも影響が出る可能性があります。
つまり、MTHFR(葉酸)とCOMT(ストレス・エストロゲン)は、体の中でつながっているんですね。
それぞれ単独で見るのではなく、ゲノム全体のつながりで理解することが大切です。
Met/Met型の人は何をすればいい?
「自分がMet型かも?」と思ったときにできることをいくつかお伝えします。
食事・栄養面
- 葉酸・B6・B12を意識的に摂る(SAM産生をサポート)
- マグネシウムを補う(神経過敏の緩和に)
- 飽和脂肪酸を減らし、EPA・DHA(青魚)を増やす
生活習慣面
- 有酸素運動(ウォーキング・水泳など)でドーパミン代謝のバランスを整える
- 十分な睡眠(睡眠不足はドーパミン系への負荷増大につながる)
- 瞑想・呼吸法(前頭前野の過活動を落ち着ける効果が研究されています)
ストレス管理
- 「ストレスをゼロにする」より「回復力をつける」視点で考える
- 自分がストレスを受けやすい状況を知り、意識的に回避・対策する
まとめ
「ストレスに強い人と弱い人の差」は、精神力の問題だけじゃありません。
COMT遺伝子の体質(Val/Met型)が、ドーパミンの処理速度を左右し、それがストレス耐性や痛み感受性、さらには女性ホルモン代謝にまで影響を与えています。
「私ってなんでこんなに繊細なんだろう・・」と思っていた方も、もしかしたらMet/Met型の体質が関係しているかもしれません。
体質を知ることは、自分を責めることをやめる第一歩にもなります。
ゲノム検査では、COMT遺伝子を含む複数の多型を調べることで、あなたの体質に合ったストレス対策・予防医療プランを一緒に考えることができます。
もし「自分はどのタイプだろう?」と気になった方は、ぜひゲノムでYOBO相談にいらしてください。
それでは、また!
参考: 本記事でお伝えした内容は、現時点での研究データをもとにしたものです。COMT遺伝子多型だけで健康が決まるわけではなく、生活習慣・環境・他の遺伝子との相互作用が複合的に影響します。