こんにちは、院長の宮脇大です。

「同じ薬を処方されたのに、Aさんには効いてBさんにはあまり効かなかった」

医療の現場では、こういうことがわりと日常的にあります。

「なんで自分には効かないんですか?」と患者さんから聞かれることもあって・・そういう「個人差」が、遺伝子で説明できる時代になってきました。

今日は「薬理ゲノミクス(ファーマコゲノミクス)」という分野についてお話ししてみますね。

薬を「分解する」酵素が、遺伝子によって違う

薬は飲んだ後、主に肝臓にある酵素によって分解(代謝)されます。

この代謝酵素のグループを「CYP(チトクロームP450)」と呼びます。CYPにはいくつかの種類があり、それぞれが特定の薬の代謝を担っています。

そして、このCYP酵素の「働きやすさ」が、遺伝子のタイプによって人それぞれ違うんです。

大きく分けると——

代謝が速い人(Rapid/Ultrarapid metabolizer):薬を素早く分解するため、血中の薬の濃度が下がりやすい。

代謝が遅い人(Poor metabolizer):薬がなかなか分解されず、体内に長く残りやすい。

「どちらがいい」という話ではなく、薬の種類によって、どちらのタイプが「効きやすい」「効きにくい」かが変わります。そこが面白いところで、難しいところでもあります。

代表例:CYP2C19とクロピドグレル

一番分かりやすい例として、CYP2C19遺伝子クロピドグレルという薬の組み合わせを紹介します。

クロピドグレルは、心筋梗塞や脳梗塞の後に処方される抗血小板薬です。血の塊ができにくくするための薬ですね。

この薬は、飲んだ後にCYP2C19によって「活性型」に変換されて初めて効果を発揮します。つまり、CYP2C19の働きが弱い人(Poor metabolizer)は、薬が活性型に変換されにくく、効果が出にくいということになります。

注目すべきは、日本人の約20%がCYP2C19の働きが弱いタイプであると報告されていることです。

心筋梗塞後の大事な局面で処方されたクロピドグレルが、実は十分な効果を発揮していない可能性がある——そうだとしたら、別の薬(プラスグレルなど)を検討するという選択肢が出てきます。

抗うつ薬でも、がん治療でも同じ話が

薬理ゲノミクスの話は、クロピドグレルだけに限りません。

抗うつ薬(SSRI系など)の一部も、CYP2C19やCYP2D6などの遺伝子タイプによって効果や副作用の出方が変わることが報告されています。「何種類か試してようやく合う薬が見つかった」という経験をされた方がいれば、そこにゲノムの影響があるかもしれません。

なぜ予防医療にゲノムを取り入れたのか(後編)でも触れましたが、がん治療の領域では、すでに遺伝子タイプによって薬の選択が行われています。薬理ゲノミクスは、がん領域では最も実臨床に落ちてきている分野の一つです。

海外では「処方前ゲノム検査」が始まっている

欧米の一部の医療機関では、薬を処方する前に患者さんのゲノム(特にCYP遺伝子)を調べることが行われています。

「この薬はあなたの遺伝子タイプだと効きにくいので、最初からこちらの薬にしましょう」という選択ができる。これが実現すると、「試して効かなければ次の薬へ」という試行錯誤を大幅に減らせます。

日本ではまだ一部の疾患・薬種に限られていますが、今後この分野の研究と臨床応用は確実に広がっていくと思っています。

「自分の薬の効きやすさ」を知る意味

「今の自分には関係ない話かな」と思った方もいるかもしれません。

でも、例えば生涯で一度も「薬を複数種類試して合うものを探す」という経験をしない人はほとんどいないと思います。循環器の薬、精神科の薬、痛み止め——いろんな場面で、この情報は役に立ちえます。

「自分はどのタイプか」を事前に把握しておくことで、医師との会話がより具体的になります。「この遺伝子タイプだから、この薬は慎重にしましょう」という判断に繋がる。

「なんとなく処方されていた薬」が「自分の体質に合わせて選ばれた薬」に変わる——そういう医療の形が、少しずつ近づいてきていると感じています。


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それでは、また!

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